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「違いますよ、ワタシはねお嬢さん、悲しいのです。けれど嬉しいのです。お嬢さん。謝らせてください、お嬢さん。ワタシは亡霊です。あなたの力になることができない惨めな亡霊です。けれどあなたの心に救われました。今、救われました。勝手に救われてしまったのです。あなたの不幸な話を聞いて。だから、謝らせてください。申し訳ない。お嬢さん、あなたは憐れな人だ。そして、どうしようもなく、いとしい人だ」
そうか。私は憐れなのだ。そう思うと何だか気持ちが軽くなるようだった。私は今、どうしようもなく憐れで、だからきっと何かを恨んでもよいのだ。何かを呪ってもよいのだ。
けれどいざとなると、何もかもが恨むにも呪うにも値しないように思えた。あんなにささくれていたはずの気持ちが一瞬で凪ぐ。それは、紛れもなく紳士な亡霊のお陰だった。
いえ、よいのです。こちらこそお礼を言わせてください、亡霊さん。あなたの言葉ですっかり憑き物が落ちたようです。私は今初めて、私の為に存在できている気がするくらいです。だから謝らないでください。私は全ての人と物事を許します。彼等も、私も、神様も、そして、あなたも。だから。
そこまで話して、突如、体の何処かに違和感を感じました。それは何処、とも言えないほど体全体が麻痺していたので、何が起きたのかも分からないまま、私の体と意識はばらばらに解けて、泡に揉まれながら海の底へと沈んでゆきます。唐突な終わりでした。これでやっと解放される、のか。
私の虚ろな目に、紳士な亡霊が映りました。彼は、笑って、いまし、た。
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