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「地震です、地震です」
真っ暗い部屋の中、突如枕元で響いたアラートで跳び起きる。
地震?いつ?今?
そう思うか思わないかのうちに部屋全体がグラグラと揺れ出す。もっと早く鳴れよアラート、と頭の隅で思う。
揺れ始めこそ驚いたがすぐに、あ意外と大丈夫だ、と判断した。狭いワンルーム、身を隠す場所はない。むしろ立ち歩いて作業机の下に潜る方が危険。僕は左手でベッドのフレームを掴み、右手で制作途中の背の高い木彫を支えた。作業机に据え付けてある棚から細かい文房具が滑り落ちて散らばる音。うーわマジかよ片付け超だるっ。
揺れが収まった。机周辺を片付けようと照明のスイッチを押すがつかない。ブレーカーを上げ直してもつかない。停電だ。もう僕に今出来ることは何もない、取り敢えず寝よう。そう結論し再び布団を被る。震源地のわからない僕は、小鳥遊は大丈夫だろうか、と神戸の友人のことを思った。スマホで時刻を確認すると午前三時過ぎ。こんな時間に連絡するのは憚られる、と災害時にも関わらず変な常識が働き、ひとまず朝を待つことにした。
余震だろう、時折、ほんの短くだが強く揺れ、その度に目を開けて木彫の無事を確認する。隣室から忙しなく喋る声がする。このアパートは壁が薄い。一言一句聞き取れるとまではいかないが、隣の部屋の中や玄関先で誰かが喋っていると、それがすぐにわかる。残暑が続いており窓を開けがちなので尚更だ。どうやら電話をしているらしく、住人の女性の声とくぐもった電子音。隣室のドアがゴンゴンとノックされ、「大丈夫?」とはっきりとした男性の声。他の部屋から様子を見に来たようだ。パタパタとそちらへ駆け寄りドアを開け、招き入れる音。女性の声からは「パニック」という言葉だけが聞き取れた。
そうかこれが正常な反応か、僕は孤独だなあ、とうつらうつらしながら考える。きっとパニックをぶつける相手のいる人はパニックになってしまうのだろう、それにしても僕はこんなに冷静というか鈍くて大丈夫だろうか、いざという時ちゃんと逃げられるのだろうか、少しくらいはパニックになった方が良いのではないか……そんなことを考えているうちに再び眠りに落ちた。
遠くから小さく、救急車のサイレンの音……。
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