九月六日

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 暫く画面を眺めていたら、また後藤さんからメッセージが届いた。 『誰か暇な人いない?』  うわーこれ絶対店の様子見に行く流れだ、と察し、トークルームタブを閉じた。僕にはバイト先の状況を案ずる心もなければ義務もないと思った。指示されたわけでもなく時給が発生するわけでもなく、バイト先の為に動くなんて絶対に嫌だった。どうして我々と同じしがない学生バイトの後藤さんが、不平不満ばかり言いつつも、自主的にバイト先の為に動けるのか理解出来なかった。ポップアップ通知で『家にいても暇なんだよね笑』という後藤さんのメッセージが一瞬表示され、消える。暇だとしても何故バイト先へ行こうという発想になるのだろうか。因みに店長は地震の直前、タイムラインに海外の街並みの写真を投稿し、『二か月ぶりのタイです(≧∀≦)』等とほざいていた。スタッフに何も告げない突然のバカンスである。こいつが後藤さんに店を委ね過ぎなのも問題だ。  本来であれば、僕は今日午後六時からの出勤だ。取り敢えずその時間通りには行こうと思った。その時にまだ後藤さん達が店にいれば一緒に作業すればいいし、誰もいなければ帰ればいい。というわけで僕はその後、通知が来ても未読無視を決めた。  部屋の中を移動する度、照明のスイッチを無意識にパチパチ押してることに気が付いた。その度に、ああそうだつかないんだ、と再確認する。天気が良くて部屋の中が明るいので、すぐにそのことを忘れてしまう。洗面所やトイレには窓がないので、真っ暗な中用を足さなければならなかった。  日が昇ってからの隣室の声は、男のものも女のものも増えていた。この騒ぎようは恐らく学生だろう。「ただいま~」とか「おかえり~」とか言ってキャッキャしている。何だか僕にはそれが気持ち悪かった。学生達の距離感が気持ち悪かったのだと思う。無事なら何故、余震もあるだろうに、わざわざ危険を冒して外に出てまで集まる必要がある?自宅で大人しく出来ないのか?地震を口実に集まってホームパーティーしてるだけじゃないのか?不安を紛らわせようという感じでもなく、楽しげなのだ。
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