九月六日

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 後輩だ。  一気に目が覚め、フォルダを開く。 『大丈夫です。物が落ちたりもなかったです。先輩は大丈夫ですか?』  ああ、良かった。  無事だった。繋がった。返してくれた。  大事もないようだ。本当に良かった。  こちらも大丈夫だと送信すると、早く電気復旧するといいですね、と返信が来た。 『そうだね。無事で良かった。じゃあね』  最後の言葉は「またね」にするか「じゃあね」にするか酷く迷った。迷って結局「じゃあね」にした。当たり前だがそう送信すると、もう返信は来なくなった。僕はまた本に目を戻す。  昼時になり、特に腹が減ったわけではなかったが、取り敢えず食パンを一枚食べた。冷蔵庫の電源が切れたために柔らかくなったマーガリンはめちゃくちゃ塗りやすく、少し感動してしまった。切り口が赤くなり始めていたレタスも、このままだとすぐ駄目になりそうだと思って食べた。食べてから、むしろ腐るギリギリまで大事に取っておくべきだったのかもしれないと考えた。いつまでこの状況が続くかわからないのだ。  でもまあ食べてしまったものは仕方がない、とすぐに思い直し、食器をシンクに置く。全く自分には緊張感が足りない。
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