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「朝礼始めるぞ!おい!ぼさっとすんな!」
田中はオフィスでは川田に対し極端に激しく怒る。自分に逆らうとどうなるかというデモンストレーションを、オフィスに見せつけているのだ。空いた時間に川田に投げかける説教は、〈アメとムチ〉のアメのつもりなのだろう。本人はあれで、やさしくしているつもりなのだ。
「一つ、お客様の為に粉骨砕身!」
『一つ!お客様の為に粉骨砕身ン!』
朝礼では社訓を繰り返し絶叫させられる。声が小さかった者、顔に覇気がない者は田中の気のすむまで何度も繰り返させられる。川田はその常連だった。今日も体調が優れないせいで、腹から声が出ない。田中がこちらを睨んでいるのが見なくてもわかる。
「粉骨砕身!フンコツサイシン!」
川田は胃液が出ないように気を付けながら、体を捩って精一杯社訓を叫んだ。まるで憎悪を込めて田中を、会社全体を呪っているかのようだ。いや、ひょっとすると、呪っているのは自分自身なのかもしれない。酸っぱいものを喉の奥に押し戻し、川田は叫び続けた。
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