オフィス街

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オフィス街

「よう、おはよう川田」 「お、おはようございます!田中部長!」川田は身を強張らせた。 「悪いな、体調悪いのに出てもらって。でも納期近いから。みんな休日返上して頑張っているのに、お前だけ休むってわけにもな」 「はい!わかっています」口答えをするわけにはいかない。自分にはこの会社以外行く場所は無い。だから悪魔のような田中にも、従順さを見せつけなければならない。外で会った時も会社の中ででもだ。つらい顔など見せてはいけない。 それにしても気のせいか、田中の顔も、もう望める位置にある社ビルも、輪郭が二重にぼやけて映る。昨晩は酒は飲んでいないのだが、何か悪いものでも体に入れたのだろうか。今朝、皮肉にも会社に出勤する夢から目覚めて、起き上がったときからこうだ。だがそんなことは休むどころか、休憩を多くとる理由にすらならないだろう。 「で、確か背中の痛みだって?」 「はい……まるで背中に太い釘でも打たれたかのような」特にここ数日は酷かった。まるで、などではなく、背骨に金属があたるような感触まであるのだ、本当に何かが刺さっているのかもしれない。が、きにしていられない。自分が釘付けになるべきなのは、オフィスのデスクなのだ。 「背中になにかぶっ刺さったような痛みなら俺も昔あったよ。でもそんなの気にせず出勤したね。俺がいないと成り立たないって、当時の部長だった社長に言われたからな。社長曰く、職業病の一種らしくて、ときどきなるやつがいるらしい」どこまで本当の話かわからないが、ただ頷いて聞くしかない。  田中の説教じみた話に付き合っているうちに、オフィスについた。入口からでも、自分のデスクを埋め尽くす書類の山が見える。ここまできてはデスクとは名ばかりの、産業廃棄物の投棄場だ。この量だと今日は会社に泊まり込みだろう。今週は休日を取れるかも怪しい。だがもう、川田は時間を奪われるのにも慣れていた。
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