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「あーあ。俺ってまじで不幸。」
「また言ってんのかよ、貴人。」
「あいつありえねぇだろ!普通、あそこまで言うか!?ムカつくんだよ!」
友人と二人、学校帰りに軽食を食べながら話をしている“貴人”と呼ばれた男。
寝癖のついた茶髪を直して、目薬を指しているパーカーを着た男は、天井を見て目をパチパチさせる。
「コンタクトって入れる時痛いよな?今日は右目だけで十分もかかっちまった。」
「お前、それかかりすぎ。コンタクトにして半年は経つだろ?」
「いや、慣れねぇもんは慣れねぇよ。」
ハンバーガーを口にしつつ、コーラを呑み、時折ポテトをつまんでいる。
通っている大学の話や、そこにいる先生の話、同じ学年の人の話や、親兄弟の話まで。
友人とは大学で知り合ったばかりだが、なんとも話しやすく、相手が聞き上手なだけに、好きなだけ話せると言う楽しさ。
自由に自分の話だけをしていても、友人は相槌を打って聞いてくれていた。
「課題明日までだっけ?貴人、もうやったか?」
「まだー。あんなのわかんねぇよ。」
先週出された課題なのだが、授業中に居眠りをしていた貴人にとって、理解しがたい、というよりも言葉の意味一つさえ分からないものだった。
学校が終わったのが夕方四時、それから友人と話をしていると、時計の針はすでに七時を回ろうとしているところだ。
「あ。もう俺帰らねぇと。悪いな、貴人。」
「ああ。そうだな。俺も帰ろう。」
友人と手を振り合って別れると、貴人はコンビニに立ちよってペットボトル一本を購入した。
コンビニを出てすぐに呑み始めると、“蒔瀬”と書かれた表札の家に帰ってテレビを点ける。
その家には、今は貴人しかいないようで、貴人のいるリビング以外の部屋は真っ暗だった。
カチカチ、と時計の針は早く進んで行き、あっという間に母親も父親も、兄弟までもが帰ってきた。
シャワーだけ浴びて自分の部屋に戻ると、貴人は明日提出だと言われた課題のことも忘れ、大欠伸をしてベッドに横になった。
「なんかいーことねーかなー」
夕飯はほとんど手をつけず、両親に心配されたが、貴人は無視していた。
慣れない学校生活に不満なわけではなく、ただ、自分以外の人間が皆、楽しそうに生きているのが気に食わないだけだ。
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