思いこむ不幸にひとときの幸せを

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  小さいころは、野球選手になりたいとか、サッカー選手になりたいとか、弁護士、警察官、医者になりたいと思っていた。   それで良かったのだ。とりあえず夢を持っていて、その夢に向かっていれば、親もひとまずは安心してくれていた。   しかし、高校に入るころには『夢だけ追っていても飯は食えない』と言われた。   幾つになっても夢を持て、と何かで聞いたことがある気がするが、それは嘘なのだろうか。持っているだけでも駄目なのか。   貴人は親と口をほとんど聞かなくなり、そう言われて夢をあっさり諦めてしまった自分自身も許せなかった。   大学の友達は気が合うし、文句も言い合える良い友達だ。   教員になるために勉強してる人もいれば、海外に行って勉強したいという人達もいるだろうが、貴人にもう夢はない。   適当に仕事に就けて、適当に生活できればそれでいいと思っていた。   「にしても、課題どうすっかなー」   未だに手をつけていない課題をみつめて、授業で使っているテキストを使えばすぐに終わるかとも思ったが、実際、読んだままを書くことは出来ない。   今は引用に対する対応も出来ており、先生が言うには、本から直接そのまま引用すればすぐに分かるようになっているようだ。   そのままだけではなく、似たような文章もひっかかってしまうという。   「あー、めんどくせー」   椅子に座って本を開いては見るが、字が小さくて英語も沢山書いてあって、読もうという気すら起きない。   一旦閉じてため息を吐くと、貴人は課題を白紙のまま出そうと決めた。   「ま、いいや。単位落としても平気な授業だし」   必須の授業を落とすと大変だが、別にそれ以外の授業ならなんとかなるだろう。   最悪進級出来なかったとしても、特に気にはしない。もともと大学さえ行く気はなかったのだから。   椅子からまたベッドへと戻ると、足を大の字に広げた。   うとうとし始めた貴人だったが、何やら気配を感じてそっと目を開ける。   「?なんだ?」   どこからか、笛の音が聞こえてきたため、窓を開けてその場所を確認しようとしたが、どこにもそんな姿は見当たらない。
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