片思いと僕

7/9
55人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
 僕を抱えた男は雨を避けるように路地裏にいくつもある廃屋の中へと走る。ところどころ穴に空いた床に、割れたお皿。壁には蔓が根を張っており、その廃屋が大分使われいないことは一目でわかった。僕は埃くさいベッドに投げられるように放り出される。ぼふっと塵が舞うのにげほげほと僕は咳をする。本当は手で口を押さえたかったけれど、手足が動けない以上その塵を吸い込むしかなかった。男は塵が舞ってても構わず僕の上に馬乗りになる。 「何を…」 「お前、『ゴーレム』だろ」  昔よりも『ゴーレム』の待遇はいくらかよくなったのはその数が減少したからだとされているが、それでも今でも『物』扱いをする者は少なくないという。僕はその男を睨んだが、出来る事と言えばそれくらいだった。こんな裏路地の廃屋でしかも外は雨が降っている状況で声を上げたとしても誰か助けに来るだろうか。殴られるのか商品として売られるのかわからなかったがそれでも隙を見つけて逃げる方法を考える。手足にまだ力は入らなかった。  男は僕が答えないのにも関わらず勝手に話続ける。 「俺の爺さんはなぁ…昔生意気な『ゴーレム』のせいで、目を潰されてそこから酷い生活してたんだってよ…。それまではうまくいっていた仕事も駄目になって、今でも俺は貧乏のままなんだよ」  男が貧乏なのはおじいさんのせいでもゴーレムのせいでもないのではないかと考えるが、それを言えば怒るのは確実だろう。僕は黙って男の話を聞き続けた。 「くそっくそっ!こんな生活も全部お前らのせいだ…。お前らが『人』に従順であればなぁ…戦争だって勝てたはずだ。休戦なんてそんな真似も、雨に怯えて暮らす必要もなかったんだ!」     
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!