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「だって、あなたは貞操どころか、異性との接触、それに会話すら避けてきたのではありませんか。それが強い意志と信仰のなせる業でなければなんだというのです?」
少女の声の主はどうやら思い込みの強いタイプの子らしい。
おそらくこの少女には、口下手や人見知り、という概念の説明は困難だろう。これ以上の説明の自分で行うのはあまりにみじめだった。
僕はあきらめて現状を受け入れることにした。
なに、それほど未練のある人生でも肉体でもない。貸してほしい、という子供がいるのであれば、貸してあげるのが大人の余裕というものだろう。
僕は少女の申し出を受け入れることにした。少女は心からの感謝を口にし、
「私の名前はホリィ。王立修道院の見習いシスターです」
ようやく自己紹介をした。僕も同じように名乗ろうか、と考えたが、僕が童貞だったことを知っていたのだから、ある程度のことは調べているだろう、と思ってやめた。
それからこの世界のこととホリィ自身について、そして彼女たちの世界に存在する、祈りの力について説明を受けた。彼女の説明の拙さと、僕の無残な理解力のために、いまいちわからないことばかりだったが、どうやら、僕らの入れ替わりと、言葉が通じているのはその祈りの力、とやらによるものらしいことぐらいまでは理解できた。そこが僕の想像力の限界だった。
「それでは二十歳になるまで、どうか私の体をお願いします」
「わかった。あ、あとちなみに」
受け入れはしたものの一応確認しておきたいことがあって、僕は尋ねる。
「もしも僕が君の話を断っていたらどうなっていたの?」
「わかりません」
少女は即答した。
「入れ替わりを願うときに、断った人のその後なんて考えたりしませんでしたから」
どうやら断らなくてよかったらしい。そういえば、太宰治の作品に処女の残酷さ云々、って話があった気がしたが、それはどうでもいいことだった。
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