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二十八歳にもなって童貞は不味いだろ、と指摘されたので、なら十六歳の童貞に戻らないといけませんかね、と返したら正気を疑われたものの、その翌日に、僕は十四歳の聖処女に転生していた。
劇的な生まれ変わりだった。
朝目覚めると部屋が違っていて、ベッドが違っていて、空気が違っていて、鏡を見ると、そこに映っていたのは、黒衣をまとった美しい少女だった。
自分に起こった現象を受け入れられずにいると、しばらくして脳内に声が響いた。幼い女の子の声だった。
少女の声は、自らのことを、僕のいた世界とは異なる世界のシスターである、と説明した。あまりに現実離れした話だ。けれど現状、僕には現状の手掛かりが何一つない。僕は呆然と、そして釈然としないまま、その説明を受け入れざるを得なかった。少女の声は続けた。
「私は信仰のために神に貞操を誓っています。けれど十四歳という年齢は私には この世界はあまりにも誘惑が多く、魅力的過ぎるのです。ですから二十八歳まで貞操を守ってきたあなたの意思の強さを見込んで、お願いします。どうか私の思春期が過ぎるまで、入れ替わった私の体の、貞操を守っていただけませんか」
「それはつまり、自分の意志では貞操を守れない、っていう、わりと恥ずかしい告白ってことでいいのかな?」
僕は尋ねた。すぐにデリカシーを欠いた質問だったに気が付いた。しかし、少女には問答無用に体を入れ替えた罪悪感があるのだろう。不快感を一切示すことなく、
「おっしゃるとおりです」
と素直に認めた。その声から、心から自分を恥じていることが感じ取れた。
「いや、そういえば僕の世界にも肉欲のせいでなかなか信仰に没頭できなかったけど、 最後には立派な教父になった偉人がいるよ」
僕は変なフォローをいれた。どうしても僕は口下手だった。それから、僕は重要な事実を伝えなくてはならなかった。
「しかし、君は誤解しているよ。僕はなにも貞操を守ってきたわけじゃない。ただ機会 に恵まれなかっただけだ。そこに意思や我慢はない」
正直に白状した。けれど少女の声は、
「またまた、ご謙遜を」
と、認めようとはしない。
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