感情の色を映す瞳

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

感情の色を映す瞳

いつだったか。どこかの心理学者が、『赤=怒り』、『黄色=喜び』というように、生物が持つ基本的な8つの感情を色で分けて、更に細かく分類して色彩立体化したモデルを提唱した。名前は確か……感情の輪、だったかな。 唐突な話ではあるが、僕の眼は、彼が提示したような『感情の色』がはっきりと見える。 街を行き交う人々や自由気ままに暮らす動物たち――彼らの姿を見ただけで、まるでサーモグラフィーのように、心臓のあたりに浮き出る『感情の色』を僕の眼は映し出すことが出来るのだ。 いつ頃から感情の色が見えるようになったのか、そもそも何故見えるようになったのか――詳しいことは僕にも分からない。はっきりとは思い出せないが、気が付いたらそうなっていたとしか言えないのだ。 この独白を聞いているあなたは、僕が創作物や空想の影響で発症してしまった所謂『痛い人』や、危険な薬に手を出した『中毒者』の類だと思うだろうが、残念ながら全て事実である。 現に僕は、昼食の休み時間を迎えたこの高校の教室で、思い思いに過ごす生徒を眺め、様々な感情を文字通り丸裸で見ているのだ。 ある者は信頼を表す『黄緑色』、嫌悪を表す『紫色』、またある者は感動を表す『黄色+水色』というように、それぞれの心臓に浮かび上がる色が時と場合によって変わっていく様は、まるでカラーパレットのようで見ているだけでも面白い。 ただ一人、彼女だけはどんな状況であっても、感情の色が全く変わらないのだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!