1人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいおい、勘弁してくれよ。何も盗んでないってのに」
「勝手に城に入り込んで、盗もうとしていたのなら、それは罪だ」
自分だけだと思っていたが、あの時あの部屋にいた男が目の前にいた。
男は真っ白い髪をしており、多分男なのだろうが、女のような顔をしている。
「あんた男?」
「男だ。で、君こそ誰かな?ここは定妙炎家だと知って盗みに来たのかな?」
「勿論!俺はこう見えて、結構情報ツウなんでね。最低限の金を持ってる城かどうかは知ってる心算だ!」
堂々とそんなことを言う男に呆れていると、また別の男がやってきた。
「龍海、どうしたー?」
なんともだるそうに現れたその男は、青い髪を少しはねさせている。
この白髪の男が龍海なのだとわかった男は、そのなんとも威厳がない男に声をかけた。
「なああんた!俺には小さな妹がいてな、そいつに薬の一つでも買って行ってやろうと思ってただけなんだ!ここから出すように、そいつに言ってくれ!」
「・・・えー。めんどうくさい」
「面倒臭いって隣にいるだろ!ふざけんなよ!城主でも連れてこいこの野郎!」
「このお方は城主の瑠堂様だ」
「はいはい、そういう冗談はいらねえから、さっさと連れてきて俺を解放するように言ってくれって・・・」
冗談だと思ったのだが、龍海は至って真面目な顔をしていた。
そういえば、代々分析力や観察力、人望が厚かったとされていた定妙炎家だが、今はうつけが城主になっていると聞いたことがある。
しかし、こんな馬鹿なと。
「冗談とか言ってるぞ!まあ、確かに。けど俺は俺なりに頑張ってるんだぞ。それより龍海、今日俺のクツ下見なかった?」
「存じません」
「えー。どういうことだよ。姿見えねえよ。行方不明なんだよ」
嘘だ嘘だと思って見ていた男に、龍海が名前を聞くと、男はへへ、と笑って誤魔化しながらも、大和、と名乗った。
「大和・・・?」
「はい・・・へへ」
どうにかここから逃げられないかと、いや、こんな馬鹿そうな城主なら出してくれるのではないかと、大和は必死に交渉をする。
最初のコメントを投稿しよう!