始まり

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始まり

天窓から注がれる日差しを受けて、大きなシャンデリアが幾重にも光を弾く。 それは互いに反射しあい、煌めき、星にも負けぬ輝きを放っていた。 最高級の天然素材で作られたヌイグルミに、職人が趣向を凝らして作った玩具。 白亜の城に相応しい、数々の名品が並ぶ。 だが、そんな一級品ですら、彼の前では途端に色褪せてしまうのだ。   「はぁ......」   感嘆のため息が出るのも仕方がない。 仕事の手を止めて、見つめてしまうのも仕方がない。 これもひとえに、彼が美形すぎるのがいけないのだ。 神様が自身が作った最高傑作をあげるなら、それは彼に他ならない。 手元に残さず、地上に遣わせて下さった神様にお礼を伝えるのも日課になってしまった。 「スモモさま」 私からの呼びかけには、瞬時に反応してくださる。 相変わらず聡明だ。 聡明で美しい。なんて完璧な存在だろう。 極上の絹糸を丁寧に染め上げたような桃色の髪。 タンザナイトのような深い色合いの瞳には、誰もが皆驚くに違いない。 性格も思慮深く、時に大胆で、私が手を煩わされることなどほとんどない。 それでいて、気付くとそっと横に寄り添われていることもあるのだ。 これを完璧と言わずして、何を言うのだろうか。 そんな彼をお世話することができる喜び。 それを噛み締めることができる幸せ。 「はぁ......」 私、こんなにも幸せでいいのだろうか。 毛足の長い絨毯の上に立った彼は、そのままこちらへと向かって下さる。 下品な足音などたてはしない。育ちと絨毯の質が違うのだ。 彼の小さい、それでいてあたたかな両手が私の手へと添えられた。 そして握られた手はそのままに、その艶やかな頬へと誘われてーー 「はぁ......!」   「……ペット相手に何をしているんだ?」
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