鉄槌

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  此処は、とある世界。ある時代のある場所で起こった出来事。 今日もまた、罪を償うべき罪人へ、『神』ではなく、『人』からの鉄槌が下される。   「よって、被告を第三地獄行に処す。」   人間の皮を被った悪魔が、地上で罪を犯す。 その罪を裁くのが、此処、『無天神裁判所』である。ここで最高裁判官を担っているのは、『紅蓮』という裁判長。赤茶色で長めの髪を、後ろで一つに縛っていて、目は若干死んでいるようにも見える。   紅蓮が法廷を後にして、一番落ち着く部屋へと向かう。   裁判所の一角、誰も行かないような薄暗い廊下を抜けると、そこには真新しい部屋がある。 裁判所自体は古くから建っているが、三年に一度、大掛かりな修復が行われるため、それほど古びた様子は無い。   ノックもせずに躊躇なくドアを開ければ、コーヒーの少し苦い匂いが鼻を掠めて行く。   「お、紅蓮。お疲れお疲れ。何か飲むか?」   ドアを開けて目の前、大きめのソファに座ってコーヒーを飲んでいる男がいる。 黒髪の頭にターバンを巻き、右目には眼帯をしていてピアスもしている。シックな黒のシャツを着ていて、足を組みながら堂々としている。   「寝る。一時間経ったら起こせ。」   「はいよ。」   ソファのある部屋の奥には紅蓮の寝室があり、そこに一直線に向かうと倒れる様にして寝てしまった。   「ただいまー・・・。あれ、紅蓮寝てる?」   そこにもう一人、この部屋の住人である男が現れた。黄土色で、ワックスか何かで立たせたような髪型をしていて、ヘアピンをつけている。   「ああ。そういや渋沢、雑誌買ってきたか?」   「もー。分かんないから自分で買えよな、隼人。」   ターバンを巻いた眼帯男は『隼人』といい、黄土色の髪の男は『渋沢』というようだ。   渋沢が隼人に雑誌を手渡し、適当にペラペラとめくり始める。   自分用にコーラを用意して、コップに注ぐ渋沢が、隼人に質問する。   「なあ。『無天神』ってさ、どういう意味なんだ?天神って神様?神様がいないってことか?」   雑誌の何に興味があるのかわからない速さで読み進めていく隼人が、一旦手を止めて渋沢の方をみてため息をつく。   そしてまた雑誌に目を戻して、マッハで雑誌を読み始める。
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