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「『天神』ってのは、文字通りだ。『天にいる神様』ってことだ。『無天神』ってのは、単に裁いてんのは人間だって言ってるだけのことだ。」
渋沢はコーラを飲みながら、おつまみのサキイカを口へと運ぶ。
「此処で働く俺がいうのもなんだけど、神様って何なんだ?」
またもや渋沢が聞けば、雑誌を読み終えた隼人が、テーブルの上に雑誌を放って欠伸をする。隼人が座っているソファの後ろには、山のように積まれた本があることから、徹夜で専門書を読
み漁っていたようだ。
本を読む速さは異常としかいいようがないが、それを指摘してもいいことはない。ソレのお陰で、渋沢も紅蓮も助かっている部分がある。というか、実際助かっている。
「知るか。まあ、神ってやつが人間の形してるってのは分かるがな。」
「なんで?」
隼人はコーヒーを一口、そのあと、ソファにごろんと寝そべりながら説明を始める。
「ちったァ、自分で調べろ。旧約聖書によると、『エロヒム』ってやつが生物をつくるとき、最後に自分に似せた男と女をつくった、って書いてある。ってことは、人間の姿形に似てるって事だろ?」
なんだかんだ言いながらも教えてあげる隼人の説明に、サキイカを幸せそうに頬張って、『ああ。』とだけ返事をした渋沢。
「まあ、俺は聖書を信じてるわけじゃねえ。進化論と平等に参考にしてはいるが。」
そう言うと、隼人は寝入ってしまった。
渋沢は部屋で一人サキイカを食べながらコーラを飲み、ちらっと隼人のうしろの本の山を眺める。
特に読みたいと思うわけではない。いや、どちらかというと読みたくは無い。
隼人は読むのが速いから、苦には感じないのかもしれないが、これだけ高く積まれた本を読めと言われても、到底その気にはなれないだろう。
アダムとイブの話しなら知ってはいるが、土塊に息吹を吹きかけたくらいで、本当に生命体が出来上がるものだろうかと、理系の渋沢は考えていた。物語としては、夢があって面白いと思う。
だが、渋沢からしてみれば、進化論の方が説得力がある。
そんな神の息吹だとかいう、未知の力で生命が生まれるなんて、摩訶不思議だった。
まあ、人によって考えなんて色々だろうと割り切ってはいるが、自分の信じているものや、崇拝しているものが真実だという価値観を押し付けられるのは、心地良いものではない。
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