0人が本棚に入れています
本棚に追加
渋沢がごろごろと寝そべりながら隼人に声をかけると、隼人はソファから勢いよく立ちあがって、かと思えばまた座った。
そのとき、紅蓮が寝室から出てきた。寝惚けた顔をしながらも、隼人に文句を言いたげにしていた。
「一時間したら起こせって言っただろ・・・。」
「悪ィ。」
あっさりとした謝罪で済ませれば、また本を読み始めてしまった。
「気づいて起こしに行こうと思ったんだけどよ、紅蓮の体内時計を信じてみたよ、俺は。」
ケロッとした声で説明はしているが、紅蓮の方を見るわけでもなく、心の底から謝っているわけでもないような隼人。
どうやら、先程一度立ち上がった時は、起こしに行かなければ行けないという焦る気持ちもあったようだ。
「何が体内時計だ。まあいい。渋沢、コーヒー頼む。」
仕事を任された渋沢は、嬉しそうに返事をすると即コーヒーをいれた。
紅蓮はコーヒーやカフェオレをよく飲む。コーヒーにも砂糖は入れないがミルクを少しばかり入れる。
一方で隼人はブラックしか飲まない。甘いものが嫌いとかそういうことではなく、単にコーヒーにミルクとか砂糖を入れると馬鹿にされそうという先入観からだ。
馬鹿にされたことがあるわけではないのだが、そういうイメージを常に持っているだけだ。
渋沢がコーヒーを紅蓮の前に差し出す。その目の前で本を読み耽っている隼人が、欠伸をしながら紅蓮に文句を言った。
「紅蓮。そろそろ新しい本買ってくれよ。もう読み飽きた。」
「読むのが速すぎる。もう少しじっくり読め。大体、何で一応お前にも仕事任せてんのに、一日で四十冊五十冊の本を読めるんだ。しかも法律の本やら参考書やら物理学に数学・・・しまいには聖書まであるのに・・・。」
頭が痛いような仕草をしながら、コーヒーを口に運ぶ紅蓮に対して、隼人はサキイカをくるくると回し、そのままパクリと食べた。
渋沢は一人でコーラを飲みながらその会話を聞いている。
「それはしょうがねえよ。小さいころからそうだ。そもそも、検察でも弁護士でも、ましてや裁判官でも裁判長でもない俺が、何で法律の本を読まされたのかが分かんねえ。」
テーブルの上に袋ごと置いてあるサキイカに手を伸ばし、また口に運びながら文句を言う隼人の前に、紅蓮は紙袋をドンと置いた。
最初のコメントを投稿しよう!