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隼人は目をパチクリさせてソレを睨みつけ、渋沢の方に紙袋を移動させた。
紅蓮がまたソレを隼人の前に持ってきて、コーヒーを優雅に飲んだ。
「なんだこれは。」
「本だ。」
「ホ●ダ?」
「本だ。」
「ト●タ?」
「本だ。」
「ミ●ビシ?」
「本だ。」
「ニッサ「いい加減にしろ。」・・・ちっ。」
隼人が早々と本を読み終えるのを予測していた紅蓮は、前もって本を大量に買っておいたようだ。新しいものは勿論、数十年も前に出ていて、今は絶版になっていそうな本まで様々なものが用意されていた。
ちらっと紙袋の中を見てみれば、最初に目に飛び込んできたのはフランツ・カフカの『審判』だった。
和訳のものではなく、英語が並んでいる本であった。英語のものの方が手に入りにくい気もしたが、それを可能にしているのが紅蓮の権力なのか、はたまた本屋のコネでもあるのか・・・?
―本屋のコネって何だ?
自分で自分の考えていることに疑問を持ちながら、隼人は紙袋に手を入れて、その下にある本を覗いてみた。
『歴史を知れば明日が見える』と書いてる怪しい本だったが、そんなこと口が裂けても言えない。たった今『新しい本をくれ』と言ってしまった隼人は、大人しく本を読み始めた。
「あ、そうだ紅蓮。次の裁判の資料が、今日の夜に届くってさ。いつもの『輪廻郵便』で届けに来るって。」
思い出したように渋沢が紅蓮に伝えると、紅蓮はコーヒーを飲んでいた手を一度止めて、ソファに寝転びながらサキイカを咥えて本を読んでいる隼人に言う。
「・・・だそうだ。」
「ふ~ん・・・。」
適当な返事をし、聞こえたのか分からないほど本に集中している隼人に向かって、紅蓮が渋沢を見て、顎をクイッと動かして合図をすれば、ソファの肘かけに足を組んで乗せている隼人の足を持って、渋沢が勢いよく引っ張った。
そのせいで、反対側の肘かけに乗せていた頭が、見事にカクンと落ちた隼人を見て、紅蓮が満足そうに不敵な笑みを浮かべた。
渋沢はとにかくすぐに謝ったが、本人の意思でやったことではない事くらい隼人にも分かっているため、怒ることはなかった。
そのままの姿勢で本を読もうとするが、頭の位置が悪いのか、腕が疲れるのか、すぐに元の位置まで身体を移動させると、また読みだした。
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