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海の見える小さな町に、この町のように小さな少女が住んでいました。
少女の名前はアオイ。浅香葵という名前でした。
小学生のアオイは、海のように青いスニーカーをはいていました。それは、町から見える海のように、鮮やかで真っ青なスニーカーでした。
小さな世界が広がっていく時、人と人との間にあるものが、粘り気のある水のように、心の動きを封じ込めていく。
いろいろな人の、いろいろな話が、女の子が履くには青すぎると、そう言っているように感じるのでした。
クラスメイトの矢追君も、そう思っているんじゃないだろうか。女の子は赤い靴を履くものだと思っているのかも。
それから、青いクツを履かなくなったアオイでしたが、父親の仕事の都合で、ここより少し大きな街に引っ越しをすることになりました。
この青い海が見える町を離れるとき、空にうっすらと、青い虹がかかっているのが見えたのでした。
それから十数年。
それほど都会ではなかった町も、きっかけ一つで都会化することもある。
昔は田んぼと畑しかなかった海の見えるこの町も、少しづつ姿を変えつつあった。
そんな田舎と都会が混ざりあったビルの一室でアオイは働いていた。
子供のころの思い出が、アオイをこの町に呼び戻したのだろう。
彼女は最近悩んでいた。何をやってもうまくいかない。
お茶をこぼす。コピーの枚数を間違える。領収書をもらい忘れる。
そんな時、空を見上げると、うっすらと青い虹がかかっている。
笑っているのか、励ましているのか。失敗すると現れる青い虹。
この町を離れる時に見えた虹が、この町に帰って、また見えるようになっていた。
思えば、あの時、青いクツ。
青い靴を履かなくなった、あの時から自分を見失い、人に流されて生きるようになったのかもしれない。
今こそ、自分を取り戻す時かもしれない。青い虹は、その事を伝えようとしているのかもしれない。
休日。青いクツを買いに行くことにした。
真夏の昼間、外に出ると危険なほど暑い。
でも、暑いぐらいでこの熱い思いは止められないのだ。電動アシストの自転車もあることだし。
しかし、バッテリーを充電していなかった。
空を見る。そこには青い虹はない。青い虹も今日は休みなのだろうか。
結局歩いて出かけることにした。
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