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最終授業がとうに終わった学習塾の事務室には、もう俺と彼しか残っていなかった。自習をしていた生徒たちも、大学生のバイト講師達も、「最近眠いわあ」が口癖のじじいもとい塾長も、電話番をしてくれているパートのおばちゃんも、いつの間にやら帰ってしまった。
俺が最後に残るのはいつものことだ。いつものことなのだが、最近はこの少年、寒川が俺に追い出されるまで粘っている。
痛いほどの視線を感じながら、俺は全神経を両目に集中させた。こんなに集中するのは久しぶりだ。そして、こんなに驚いているのも。
きゅっ、と赤いペンで最後の丸を書き、ペンを置いて、俺は青ざめた顔の少年の方へくるりと椅子を回した。
「満点や」
「は!?」
「回答欄を間違えてなければ、やけどな」
「なっ…」
寒川は俺の手元から問題用紙を奪い取り、赤マルが並ぶそれを信じられないという目で見つめた。
「ま、まじで…?」
「マジや。お前が十回見て、俺が三回確認したんやから間違いない」
「うっ…」
いよっしゃー! というみずみずしい雄たけびが、静かな事務室に響き渡った。
今日の午後、昨日行われたマーク模試の解答が公開された。弱点分析付の各自の答案が返ってくるのはまだ先だが、先に自己採点が出来るようにと、模試を主催する大手予備校が毎回配慮している。昨日受験した寒川は夕方塾にやってきて早速自己採点をしていたが、数学の点数が信じられないので確認してくれ、と俺のデスクにやってきた。
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