1-1.望んだものは小さくて

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「シャーリアス卿、どちらへ?」 「王の下へ」  貴族の問いかけを鬱陶しく思いながら、端的に答える。  以前は出生すら隠されて教会で育てられたウィリアムだが、その能力を王に引き立てられて、今では執政にまで上り詰めていた。  その敏腕さはもちろん、彼に取り入ることで王に近づこうと考える輩も増える。  執政は王が自らの意思で自由に選べる側近なのだ。  本人が望むと望まざるとに関わらず、政治や駆け引きのステージに引っ張りだされるのが常だった。 「うちの娘が、先日あなたをお見かけしまして……是非一度ゆっくりとお会いしたいと」 「大変光栄ですが、ご辞退させていただきます」  相手の言葉を遮り、一言で切り捨てる。王に娘を献上できない中流貴族だろう。  たしか子爵だったか? この男……。一度覚えると忘れられない不自由な記憶能力を手繰り、ウィリアムはにっこりと慇懃無礼に吐き捨てた。 「私では身分が違いすぎます。子爵令嬢に失礼でしょうから」  それ以上不愉快な言葉を聞く前に、ウィリアムは踵を返した。その口元は先ほどの笑みと違い、自嘲じみた形に歪められている。     
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