1-2.だからこそ届かなかった

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 抱き締めてキスした甘い雰囲気は、もう2人の間に存在しなかった。顔を上げたウィリアムの三つ編みを掴むと、エリヤは静かに目を伏せる。  泣き出しそうだと、そう思った。 「陛下、決裁を」  執政の言葉で彼の意識を掬い上げる。頷いたエリヤが取り掛かった書類を次々に説明しながら、頷いて署名する少年の横顔を見つめた。  書類の署名を確認しながら、すべての書類を纏める。エリヤの今日の執務は半分以上終わっていた。  ぐったりと椅子に沈み込む少年の細い体に、この国のすべてが覆いかぶさっているのだ。 「ウィル、頼みがある」  先ほど命じた時と違う甘えた声に、ウィリアムも首を傾げて振り返った。執務中は決して見せない、優しい笑みでエリヤの前に屈み込む。 「言ってみろ。叶えてやるから」  こうして甘やかしてくれる存在はいなかった。王子としての言動を押し付けられ、誰もが大人として扱ったから……王子じゃないエリヤを認め受け入れてくれたのは、ウィリアムだけ。 「……眠いから、一緒に……」  添い寝して欲しいのだと強請られ、可愛い言葉を紡いだ紅い唇を指先で閉じる。ご褒美のキスを額に落とし、首に回された手をそのまま椅子から抱き上げた。 「このまま外へ出たら、きっと親衛隊がびっくりするだろうな」 「……バカ」     
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