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かくれんぼ
青い浴衣の女の子が、こっちこっちと手招いている。
さみしいさみしいと泣いている。
「本当にねぇ。大きくなったねぇ」
仏壇のじいちゃんに挨拶して腰を落ち着けると、ばぁちゃんがしみじみとした様子で言った。
「それ、さっきも聞いた」
「だってねぇ。もう十年近くたつだろう?写真はもらってたけど、でも、実際に会うとねぇ。大きくなったねぇ」
「何回言うんだよ」
軽く笑いながら、キンキンに冷えた麦茶をうけとる。
「親父たち、予定より遅くなるかもだって。でも結婚式にはなんとか間に合わせるって」
「そうかい。楽しみだねぇ」
縁側の向こうで、蝉がじーわじーわと鳴いている。時折、チリチリと風鈴が音をたて、涼を運んでくる。
こんなに顔をしわくちゃにして喜んでくれるなら、部活が忙しいからとか言わないで、少しは来とけば良かった。
「こっちは久しぶりだろう?昔の友達に会ったりするのかい?今夜はお祭りがあるから楽しんでくるといい」
「んー」
就職したにしろ、進学したにしろ、ここを離れた奴も多いだろう。残ってる奴がいたとしても、引っ越してから一度も会ってないのだ。見かけてもわかるかどうか。連絡を取っている相手もいない。
あぁ。でも、一人だけ。
「なぁ、ばぁちゃん。あいつ、覚えてる?るり。ほら、よく青い服着てて、いっつもオレの後くっついてた。まだこっちにいるか知ってたりする?」
ばぁちゃんの顔が強張った。
「ばぁちゃん?」
「あぁ、そうか。賢ちゃんには、言ってなかったんだね」
手の中のコップに視線を落とし、ばあちゃんは何やら言いにくそうにしている。やがてきゅっと唇を噛み締めると、口を開いた。
「るりちゃんはね、神隠しにあったよ」
「………………え?」
夢を見た。
新幹線の中で、青い浴衣の女の子の夢を。
昔、よく一緒に遊んでいた子。
青い色が好きで、夏は青いワンピース、冬は青いセーターを好んで着ていた。かき氷は必ずブルーハワイだったし、お祭りで青いヨーヨーをとってとせがまれたこともある。
どうしてそんなに青が好きなのか訊ねたら、内緒だよとこっそり耳打ちしてくれた。
「あのね、るりの名前ね、きれいな青い石の名前なんだよ」
よく迷子になって、かくれんぼが得意で、お兄ちゃんって慕ってくれていた。
こっちに来るとなった時、あの子には会いたいと思った。だから、夢に見たのかもしれない。
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