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目の端に映る、この色を僕は僕の体内でしか見たことがなかった。その色を見るために幼いころは自身の手首を切ったりもしたが、今はもう、切っても青の中にうっすらとしか表れない。
「赤いリンゴなんて僕は、久々、に……」
あまりの色の発色に、僕の視界が揺らぐ。目が泳ぎ、焦点が定まらず、足がおぼつかなくなる。赤を目の前にして僕は蹲る。自然と頬が痛んだ。僕の中の青が悲鳴を上げていた。頬を青に染めようと必死になるが、体温が妨げる。
「スカイ、リンゴだ。ここに生きてる色があるんだ。見てくれ。僕の中に何かまだあるみたいに、リンゴみたいな赤い何かが体を沸き立てているんだ」
僕の中の何かがゆるりと動く。さきほどの発言を殺そうとナイフを差し向ける。僕だって、嫌になることがある。ものを言わぬ猫に話しかけて、何も変わらないことなんて知っている。それでも話しかけて、歩き続けている。
それを肯定するようにリンゴはぽつりと一人、銀世界で息を吐く。
「よかった。スカイ。なあ、スカイ」
顔を上げてスカイを見る。しかしスカイはこちらを凝視するだけで、なきもしない。青く澄んだ瞳を、細くなった瞳を光らせて、僕をじっと見ている。しっぽを地面に垂らして、なめらかな青い毛並みを沈め、牙を口の奥に隠す。
それで気づいてしまった。
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