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少女は小さい木のバケツを水玉の横からそっと浸ける。バケツ全部は浸けない。半分くらい。バケツ一杯に水玉を汲むと、重さで少女には持ち上げることができないからだ。
ゆっくりとバケツを水玉から引き抜く。バケツを持っている少女の腕に、バケツと汲んだ水玉の重さが掛かる。少女は細い腕でバケツが地面に落ちるのを必死で堪える。腕がプルプルと震える。一旦バケツをゆっくり地面に下ろす。
汗はかいていないが右腕で額を拭う仕草をする。兄の真似だ。
「よいしょ」 掛け声も兄の真似をしながらバケツを持ち上げる。
バケツの中でも水は水玉の形だ。少女が一歩一歩進む度に、バケツの中の水玉はプルプルと細かく揺れる。だが水玉の形が崩れることはない。
少女は水玉の入ったバケツを家の中に運び入れる。目的の場所は家の台所だ。バケツで汲んだ大きな水玉からの距離は十五mくらい。それでも少女は休み休みバケツを運び、五分程かかって家の台所まで運んだ。
台所には、風呂と間違えそうな大きめのバケツが備え付けられていた。少女はバケツを持ったまま、大きなバケツの脇にある脚立を登り、運んできたバケツの水玉を流し込んだ。流し込まれた水玉は、元 からバケツに入っていた水玉に取り込まれ、少しだけ大きな水玉になった。
少女は少しだけ大きくなった水玉を見て微笑んだ。これが少女の日々のお手伝い、五往復の水玉運びだった。
少女は二往復目の水玉運びに、大きな水玉に向かって家の外に駆け出した。
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