追想の逢瀬 参

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 追廊庵からの帰り道。  躑躅(つつじ)の咲き誇る緑の回廊を並んで歩く。  そんな二人を出口へと誘うように、惑い歩いて来たはずのその路は、優しく開いた。  両脇を埋め尽くす、爛漫とした躑躅。  その一つを手に取ると、撫子は朗らかに笑ってみせた。 「夜一郎さん、見て下さい。綺麗な躑躅ですよ」  カランと乾いた下駄音を鳴らしながら、撫子は躑躅の回廊を行く。 「今度、躑躅の灯籠でも作ってみようかしら。そうしたら、夜一郎さんに贈っても良いですか? 今日の想い出を、形に残して置きたいんです」 「……有難う。出来上がったら、取りに伺おうか。そうしたら俺からも一つ、贈り物が出来るからね」 「贈り物、ですか?」 「ああ。今日の想い出の一つとして、躑躅の簪を作ってみるよ。そうしたら、君に贈ろう。それに――」 「――それに?」 「また、君に逢えるからね」  夜一郎は照れくさそうに、俯きがちに笑う。 「そうですね。でも、その前に私が夜一郎さんのお店に行くと思います。貴方に、また逢いたいですから」  穏やかな静寂が満ちる中、二つの影はゆっくりと進む。 そして道なりに進んでいくと、次第に躑躅の木々が少なくなり、やがて賑やかな喧噪が聞こえてきた。 「お囃子(はやし)……?」 「きっと練習だろう。神社で行われる、季節祭が近い」  喧噪が近づく。それにつれて背後から微かに風の流れを感じた。そして、一歩。 「きゃ……!」  突如強い風に背中を押され、脚がもつれた。  ガクンと体勢が崩れ、そのまま茂みを抜けると地面に倒れそうになる。 「撫子……っ」  強い力によって身体が浮かび、引き寄せられる感覚。  直後、目の前には夜一郎の不安そうな貌があった。 「怪我は?」 「だ、大丈夫です」  良かった、と安堵の吐息を零す夜一郎。  その背後で、ザワリと茂みが震え路が閉じた気がした。
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