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 私、広田緑子には秘密がある。  今朝は終業式であった。壇上にたった校長によれば、例年より長い梅雨がようやく終わりを告げたらしい。蒸し暑い体育館から解放された私はだらだらと教室に戻り、伸びをした。  校庭に面した窓際の自分の席からは、外の様子がよく見える。日の光が反射し、まぶしいほどに真っ白なグラウンドでは、もうHRの終わったらしい野球部員たちがライン引きを運んでいるのが見えた。私を含む中学三年生達はすでに引退の時期を迎えている。どことなく彼ら下級生達の足取りは軽く見えた。  相当暑いらしい。校庭をはさんだ向こうに見える雑木林は、心なしかジリジリとゆれているようにみえた。 「みどりこさん」 肩をたたかれ、私は視線を声の主に向けた。クラスメイトが話しかけてきていた。彼女は私の肩に乗せたままの手を、黒板の上にあるスピーカーに向けた。 ――くりかえします。3年2組の広田緑子さんは、職員室まで来てください。 「緑子、呼ばれているよ。もしかして委員長のアンタがいかないと、HR始まらないんじゃないの」  彼女はいぶかしげに私を見下ろす。そういえば、終業式が終わってもう大分経つのに、担任はまだ来ていない。いっこうに来る気配もない。その一方で校庭に出てくる生徒の数は、次第に増えてきているようだった。  私のせいじゃないでしょ、そう言い残して私は席を立ち、教室を出た。  その時、壁にぶつかる。黒い学ランの肩、男子生徒だ。  背が高い。思わず見上げてしまった。野球部らしい、日焼けした肌と刈り上げた頭。クラスメートの尾野田郎だ。  田郎が何かを言いかけたが、私は視線を逸らすと職員室へかけだす。  また悪いものを見てしまった。
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