俺のやりたい音楽

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「お前ら、来てくれて超絶ありがとうだぜ、ベイベ!」  その客をベイベと呼ぶセンスは、何年前だよと突っ込みたくなる。こんな山田でも、会場を押さえる能力は、ズバ抜けていて、出しゃばりさえしなければ、いいマネージャーになれると思う。この前の打ち上げで、マネージャーとふざけて呼んでみたら、ブチ切れられたから、言わないけど。  三曲だけのライブセット、こちらとしては物足りないが、いい具合に賑やかしになったと思う。名残惜しいが、本番を務めるバンド、血みどろリップグロスとバトンタッチだ。  ハイタッチの手を無言で掲げてきたのは、ボーカルのHISAMI、顔を仮面で隠しているけれど、絶対に可愛いコだ。身体つきも超エロい。天使のリングを輝かせる、さらり揺れる長い髪。ふわっと香る、カモミールの匂い。 「ライブよかったよ、ほら」  ぼうっとしていた俺はそこで気づいて、ハイタッチを返す。ぱちんと少女の柔らかい肌と、武骨な僕の肌が鳴らした音。反響して頭の片隅にREC(録音)された。  血みどろリップグロスは、最近になってヒットチャートを騒がし、メディアへの出演も増えているバンドだ。ボーカルのHISAMIは、その仮面を一切剥がすことががないことで有名だ。目元も口元も鼻筋もすっぽりと覆う仮面は不気味な笑みを浮かべている。  去っていく後ろ姿は、ロリータファッションに身を包んだ華憐な少女そのものなのに。  HISAMIは、山田や加藤、三笠とも丁寧に握手を交わした後、舞台へと上がっていった。そして数秒後、ライブハウスを丸ごと揺さぶるような轟音がして、少女が叫んだ。 「てめえら、死にてぇのかぁあああああああああああっ!!」  そう、血みどろリップグロスは、デスメタルバンドだ。あの華憐なコが……と考えると凄まじいギャップのデスボイスだ。
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