俺のやりたい音楽

3/4
前へ
/9ページ
次へ
 演奏の音圧もエグくって、ぼろっちいライブハウスの音響設備が、悲鳴を上げている。ちりちりと鳴るノイズが上乗せされたギターの音色が、俺たちの聴覚を奪った。 「うぉおおおおおおい! 加藤! この後打ち上げ行くかぁああああ!?」 「あぁああああ!? 何言ってるか聞こえねえよ!」 「打ち上げだよ! うーちーあーげぇー!」  耳を押さえながら、叫ぶような話し方の山田。デスボイスがうつってしまったのか。なんだかツボに入ってゲラゲラ笑った。  あーあ、腹痛え。  たった三曲でライブハウスを去るのも名残惜しくって、俺たちは血みどろリップグロスのライブを観ることにした。山田はというと、「あんなのロックじゃねえ」と謎の捨てセリフを吐いて去って行った。  バイトで稼いだ金を叩いて割高なドリンクを買って、スタンディングオベーションで跳ね回る群衆の最後列に加わる。  そこは、まさに震源地。  その場にいるだけで、心臓に電極がぶっ刺さって、無理くりに拍動させられているような感覚だった。  人ごみの湿度と熱でじっとり汗ばんで、動悸がする。そこにいるだけで、肉体が生臭くなって、生きているって感じさせられる。沸騰した脳みそを、HISAMIのとがった声がぶち抜いた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加