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ほろ酔いインスピレーション
ライブハウスを出るころには、午後十時になろうとしていた。血みどろリップグロスのこの日のセットリストは、まだ持ち曲が少ないせいもあって、半分近くがカバー曲だった。でも会場も、うちのメンバーも終始大興奮だった。
加藤はリズム隊の演奏に舌を巻いていたし、三笠はボーカルはもともと熱狂的ファンだったのも手伝って、テンションがおかしくなっていた。オールスタンディングの観客たちは暴れ放題で、俺たちはモッシュに巻き込まれて満身創痍だ。何か所か、身に覚えのない痣ができていたりするのを、街頭の下で笑い合う。手を叩いて笑う癖のある三笠のハンドクラップがビル街で跳ね回った。
「あー、もうっ、ホント最高だった。演奏からボーカル、MCまでキレありすぎ」
ほんと、HISAMIのあの小柄で華奢な体躯のどこからあんなパワーが生まれてくるのか。まだまだ語り足りない俺たちは、近くの居酒屋へと向かうことにした。繁華街をふらふらと歩いていれば、店の看板掲げた客引きが誘ってくれるだろう。
思考停止のまま、まるで光に誘われる蛾のように雑居ビルの中へ吸い込まれて行く。しらふなのに、そこから店についてビールジョッキを互いにかち合わせてからんと音を鳴らすまでの記憶がほとんどない。
「私、手売りのアルバム買っちゃったよ」
「それさっきも聞いた。聞いたら貸してくれよ」
全八曲を収録したミニアルバム。ライブで披露していた曲が全て収録されている。一曲目から最高潮に達した「ひめとよばれて」もそうだが、血みどろリップグロスは、歌詞がすごくいい。コールアンドレスポンスが盛大に沸いた「コスプレテーマ:普通の人」なんて最高だ。これは、うちのメンバーも満場一致の意見。
三笠が、メンバーの直筆による歌詞カードを取り出す。
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