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「この歌詞、全部HISAMIが書いているって、すごいよね」
気取っているようでそのベールを剥がせば、ぎらぎら光る刃が忍ばせてある。メンバー全員が仮面を身に着けたヴィジュアルと伴って演出される世界観、メジャーデビュー間近なことも納得だ。虜になった俺たちは、自分たちのバンドの打ち上げであるということを完全に忘れてしまっていた。
「うちらもさー、こんな方向性ありかもね」
早くもほろ酔いの三笠が怪しい呂律で口走る。けれど、あいにく、そんな技量は持ち合わせていない。だいいち、山田がそれを認めないだろう。うちのバンドは山田の独壇場なのだから。
「でもさ。言ってみないと分かんないじゃねえの?」
そう諦めかけたけれど、加藤のその言葉で提案だけはしてみようということになった。全員いい具合に酔っているので、判断が鈍っているだけかもしれないが。
「いっそさ、ここで一曲作ってみようよ」
さらに三笠がそう言うものだから、俺たちは俄然乗り気になった。とはいっても、個室でもないオープン席で店員に預けてある楽器を取り出してなんてことは流石にしない。詞を先に組み立てて、後から曲をつける寸法だ。
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