①プロローグ・春可

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①プロローグ・春可

 東堂春可は北条武之を目の前にして、今までになく気分が高揚し、この人なら間違いないと――思うことができなかった。  真っ直ぐに見つめてくる武之の目から顔を背け、胸の前で片手を握り締めた。両親の顔がフラッシュバックする。なぜ?このドキドキは綱渡りのようだった。  肩に手が触れた。隣にいた南方朱音が心配そうな顔をしている。  春可と武之の間に西原虎太朗が割って入った。虎太朗は微笑んで優しく言う。 「東堂さん…大丈夫?今日の練習で疲れたんじゃないかな。早めに休んだ方がいいよ。タケと話すのはまた明日でもできるしね」 「気分が悪いのか?明日の練習に支障が出たらいけない。しっかり休めよ」  武之は朱音に視線を移す。 「南方、明日は特別メニューを組んである。お前のプレイスタイルに合わせて苦手な部分を克服できるような――」  朱音は掌を出して武之の言葉を制す。春可に向けた表情とは変わって、厳しい目を武之に向けている。 「部長、その話は明日聞きます。おやすみなさい。西原先輩も、おやすみなさい」  春可は朱音に肩を抱かれ、部屋へと誘導された。春可は振り返り、二人に向かって笑顔を作る。 「お、おやすみなさい…」
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