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「タンマアアアァ」
ギュルオオォと腸が悲鳴を上げたそのとき、私はタンマを要求した。
「は?」
口を半開きにした高坂先輩が呆気に取られた表情を浮かべる。
それもそうだ。話があるって屋上に呼び出しておいて、「あの……」って話し始めた途端に眉間に皺を寄せた面でこっちからタンマを要求したら、誰だってそんな顔になる。
「タ、タンマって、ちょっと待ってって意味だっけ?」
「そ、そうです。……ち、ちょっと待ってくださってもよろしい、でしょうか?」
駄目だ。お腹が痛すぎて変な日本語が出る。
ここは一旦、退却して改めて出直したほうがいいかもしれない。
「ところで七種さん、顔色悪いけど……ってゆーかすっごい苦しそうだけど、大丈夫っ?」
「え゛? ぞうですか?」
いや、そうだろと心中で自分に突っ込む私。
その瞬間、“出直したほうがいいかもしれない”から、“出直す”に決定される選択肢。
とてもじゃないけれど、伝えるべき言葉に気持ちを乗せられるとは思えない。
というより、言葉そのものがすんなりと出そうにもない。
あっちは出るかもしれないけれど。
「あの、七種さんっ。タンマ中悪いんだけど、実は俺からもはな――」
「あーっごめんなさい今ちょっと無理ですほんとごめんなさいまたあとでお願いします失礼しまーすっ!!」
私は高速お辞儀を五回繰り返すと高坂先輩に背中を向ける。そして脱兎の如くという例えが相応しい勢いで屋上から去って行った。
こうして、私の初めての告白は腹痛によってとん挫したのだった。
もう、最悪うううううううっ!!
〇△□
「で、結局、告白せずに戻って来たと」
「う、うん」
生徒達で賑わう昼休みの教室。眼前の机に両肘をついてその手に顎を乗せるのんちゃんは、眼鏡の位置を直すとそう口にした。
その表情から読み取れるのは、せっかく手紙まで書いて呼び出したのに何やってんだかという呆れ顔だ。
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