2人が本棚に入れています
本棚に追加
「それ、公開処刑になる予感しかないじゃんっ! やっぱり今行くしかないかな。……でも……うぅ、勇気が出ないよぉ」
どうしても乙女の恥じらいが邪魔をして、意を決することを妨げる。
中学生の女子が学校で“大”をするなんて、そんな勇猛果敢なことはなかなかできることではないのだ。
それはのんちゃんも分かっているのか、
「まあ、ハズイっちゃ、ハズイものね」
と理解を示してくれた。
そのとき――。
「あ、ちょっと私、モリモリうんちしてきまーすっ」
そんな声が響きわたった。
水を打ったように静かになる教室。でも、その声を発した女子が誰か分かると、
「なんだぁ、お前か」
「おう、しっかり出してこい」
「一本繋がってたら写メ撮ってきて」
「消臭剤は大丈夫? 私いいの持ってるわよ」
という声があちこちから聞こえてきた。
すると、のんちゃんが私の耳に囁いてくる。
「ああ、そういえばいたわね。うんちをするという羞恥を堂々たる態度で完全に吹き飛ばす、通称『勇者』、堂珍香苗さんが。遥も堂珍さんのようにストレートに言ってみれば?」
「無理無理、絶対無理だよっ。あれは豪放磊落な堂珍さんだからこそできる技であって、私には絶対無理っ!」
そんな堂珍さんがクラスメートに、戦いに送り出される村一番の戦士かのように声援を受けながら教室を出ていく。
そして彼女が、爽快な顔をして戻ってきたところで休み時間は終わった。
〇△□
六時間目の数学の授業が終了。
チャイムの余韻を聞きながら、私はのんちゃんのほうへ体を向ける。
「耐えたっ、耐えたよぉ、のんちゃんっ」
「よしよし、よく手を上げなかったね。ただ我慢し過ぎで体から臭ってきてるかも」
「えっ、ほんとっ!?」
私は、腕やワイシャツの胸元の隙間に鼻を近づけてクンクンする。
今朝、付けてきた香水の匂いしかしなかった。
「ぷっ、うそだよ。あ、ちょっと遥、見て……」
からかうのんちゃんに一言言ってやろうとしたところで、彼女が目線を教室の中央へと向けた。
最初のコメントを投稿しよう!