初恋は青春の味

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「(終わっちまった)」  見上げた空に入道雲。パーマをかけて失敗したような山なりの雲が空の端で夏を演出している。  体は影にあっても地面から照り返す熱のせいで体温が高い。公園のベンチは自らを熱して座られることを嫌がっていたが、他に行く宛もない俺には此処しか居場所が無いような気がしていた。 「(あっけないもんだよなぁ)」  小学生の時から続けていた俺の野球人生は、つい一ヶ月ほど前に甲子園出場をかけた県大会決勝でピリオドを打った。  始まりがあれば終わりがある。  それは分かっていたつもりだが、こうもあっさりと終わるものだとは。  名だたる強豪がひしめくなかで俺たちの野球部もまた強豪とうたわれていたが、試合は毎回何が起こるか分からない。まるで漫画のように、無名の学校が這い上がってくることだってあるし、強豪校がプレッシャーに押し負けることだってある。  経験値を積んだプロと違って、俺たちは等しく高校生なのだから当たり前だ。 「(あと一歩…いや半歩分、手が届けば…)」  ベンチに寝転び目を瞑れば、掴み損ねた白球が鋭く外野へと抜けていく様子が鮮明に浮かぶ。  あの時に戻ったように手を伸ばしてみても記憶の中にあるボールは逃げていくばかりで、もう何度も繰り返した追想は虚しく終わるばかりだ。  意味のない事をしている。   その自覚はあった。  今まで費やしてきた結果が、あの、たった数時間。熱気と声援と興奮がない交ぜになって沸き起こり、地に足が付いていないような高揚感で何も考えられなくなっていたあの瞬間。  手から零れ落ちるように抜けたボールはミットに収まらず、鋭い直線で俺の隣を―― 「(…くそっ)」  考えまいとすればするほど、脳裏に焼き付いた光景がフラッシュバックする。  空へと伸ばした手を強く握り締めても爪の跡が掌に残るだけで。乱暴に振り下ろすも、手を怪我しないよう、長年に渡ってついた癖のせいで膝すらロクに叩けない。  何かに当たることすら出来ない自分に嫌気が差して、歯を食いしばった軋む音に被さる声があった。
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