初恋は青春の味

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「まぁ…暑いのはそこそこ慣れてっし。」 「あぁ、野球部だったもんな。」  暑いなどと言いながらも、ぽつりと名前を出された事が合図だったように高橋もベンチへ腰を掛ける。  今しがたまで、俺が頭を乗せていた場所だ。 「(…座るのか。)」  俺と高橋は、特別仲が良いわけではない。所属するグループも違えばタイプも違う、何かしら用事があった時だけ必要最低限の言葉だけを交わす、ただのクラスメイトだ。  だからどうして俺に声をかけたのか、そしてどうしてこのベンチに座ったのかが分からなかった。残暑とかいう夏の名残のせいでアホみたいに暑い今の時期、公園で遊ぼうなんて子供はあまり多くなく、他にもベンチは余っているのだから。  理由を表情で判別しようにも、俺の背中に隠れるようにして座ったので肝心の顔が見えない。  わざわざ同じベンチに座ったのなら、会話の意思があるということだろうか。もしそうなら背を向けたままで話をするのもどうかと思い、ベンチの上で胡座をかいたまま、尻を回転させて正面を向く。  すると真正面に砂場が見えた。人一人居ない、静かに波打つ砂の海だ。もしかしたら昨日はお城が建っていたかもしれないし、おままごとの砂団子が並んでいたかもしれないが、なんにせよ今日は、人の姿はない。  そうして波打ったまま固まっている砂の海を眺めてから、十秒にも満たないたった数秒。 「(…何も言わねぇのかよ!)」  何か話したい事があるから声をかけたわけではないのか、ベンチに腰掛けて真正面を向いたら高橋は、まるで卵を持った親鳥のようにトートバッグを抱えて口を開く気配がなかった。
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