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1-1 和夫、異世界へ
―――俺は伊藤和夫。どこにでもいるフツーの高校生2年生だ。
事の発端は何のこともないただの気まぐれだった。
「散歩行ってくるわ!」
そう言って家を飛び出し家のそばの見慣れた山道をいつも通り歩いてたんだ。…のはずなんだが。
いつの間にやら小高い丘の上にいる俺。目の前に広がるのはだだっ広い草原とそれを囲うように生い茂る森林。遠方からの爆音とそれに伴う爆炎。その爆炎の中に浮かぶ巨大な何か。
俺の知る見慣れた景色とやらはそこになかった。
「どうなっとんじゃこりゃあああああ!!!」
伊藤和夫。天ヶ原高等学校2年生。勉学は壊滅的ではあるが鍛え上げられた肉体と類いまれなる運動神経を持つ体育会系の青年である。加えて逆立った髪の毛とサングラスが異彩を放つ。
そんな伊藤和夫は呆然と立ち尽くしていた。自慢の逆立った髪の毛も心なしかへたっているようにも見える。サングラス越しに見る世界は和夫の知るそれとはかけ離れていたから無理もないだろう。
草原の遥か先に見えた巨大な何かは木の化け物であり、その足元で爆炎を起こしていたのは人と思しきもので構成された集団であった。それらの戦闘は明らかに現実のものではない。
「おいボサっとしてんな!」
不意に後ろから声がかかる。
驚いて振り向く和夫だがそこにいたのは赤いドラゴンだった。和夫は後ずさりしドラゴンと距離をとる。未知の存在を前に棒立ちするのは不味いと考えたためだ。
2m程だろうか?2足で地に立ち、太いしっぽに背中には大きな2枚の翼、角が5本程生えている漫画とかに出てくるイメージのままのドラゴンだ。
怪物といいドラゴンといい次から次へと一体何なんだ…、と和夫は内心思った。
そして徐に辺りを見渡す。一体どこから声が…
「何だよキョロキョロと。寝起きか何かか?」
と和夫の顔を深紅の瞳で覗き込みながらそのドラゴンが話しかけてきた。
…話しかけてきた?
「しゃ、喋ったああああ?!!」
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