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ボクは首に巻いていたマフラーを外すと彼女の首に巻いてあげた。
「ありがとう」
彼女はそれだけを告げるとボクの手を握ってきた。
あたたかい。首元は少し寒くなったけど、てぶくろ越しに伝わる彼女の温度はとてもあたたかい。
だからボクは彼女の手を強く握った。
離したくないという想いもあるけれど、それ以上に彼女の手のぬくもりを感じていたかったのだ。
ボクらは予定通り、商店街を歩いた。近所だからいつも見慣れた商店街だけど、彼女と歩くと世界が変わる。
いつもは素通りするお店も彼女が興味を持てば足を止めて立ち寄ったし、いつも見かける頑固な店主にも今日は優しく話せそうだ。
少しだけデートを楽しんだ後、彼女はポツリと大事なコトを告げた。
「そういえばわたし……成功したよ」
目的語の無い会話。それだけでもその言葉の意味をボクは強く感じた。
「うん、良かった…良かったよ…」
ボクはそう答える。本当ならここで大げさに喜ぶのが普通だろう。でも、ボクの場合はその喜びを小さく噛みしめる。
彼女もそんなボクに気付いているみたいで笑みを浮かべた。
成功した。
それは彼女がこの場所に来ていたことからもわかっていたことだ。
ボクと彼女が数か月前に交わした約束。
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