ロビンソン

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「朝子、海でも行こっか」 と七緒が言う。 「いいけれど、海に何しに行くの」 と聞くと、七緒は 「いかだでも作って、朝子と漂流する!」 と子供みたいな事を言うので、今度は私が笑った。 「だってさ、なんか遠くに行きたいじゃん。このまま夏が終わるのは寂しいし。それで遠くに行って、帰れなくなりたい」 と言う七緒はいつものような表情ではなく、どこか寂しそうだった。 私には七緒の気持ちがよく分かった。 いつも大胆に見える七緒ですら、ゆっくりとだが逆らえない時間の波に押し流されていくのだ。 そのことについて焦燥感を感じても、何をしていいのかも分からない。 思い切ったことをしようとしても、ほとんど大多数の人間は自分が今まで過ごしてきた日常から抜け出すことが出来ない。 それは私も七緒も一緒だ。 「いいよ、七緒。いかだを作ってそのまま遠くへ行こう。それでずっとここには帰らない。海を漂って、そのまま死んじゃおう」 出来もしないことを言う私に、七緒は少しだけ泣きそうな顔をして、それからまた唇を重ねた。 もうブルーハワイの味は消えていた。
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