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「でも、いいね」
「何が」
「保健医の話」
「ん? 美織って面食いだっけ?」
「そうじゃなくて、なんか青春してるなって」
廊下を歩いていると、たまに視線を感じる。
「菱川のお姫さんだ。前回も学年トップだってさ」
「さらに美人。なんかあーゆーの『高嶺の花』っていうんだろ?」
「あー、俺はパス」
「バーカ、相手にもされねぇよ」
聞こえてくるヒソヒソ声。だけどどれも褒め言葉じゃない。まるで、珍獣でも見るかのような扱いだ。
「ホント馬鹿ね。しかし美織はモテるんだから、青春し放題じゃない」
「違うよ。あれは私が『菱川』だから。そうじゃなかったらきっと見向きもしないわ」
そう答えると、アンリは「はぁ」と深いため息をついた。
「相変わらず、自己採点が低いわね。もっと自信持っていいのに」
こんなことを言ってくれるのはアンリだけ。
「ありがとう、アンリ」
アンリが居なかったら、あたしは引きこもりになっていたかも。いや、なれない。『菱川』にいる限り、逃げ場所なんて何処にもない。
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