高嶺の花が落ちる時

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それは私じゃなくてもいい、という意味だ。『菱川』の名前さえあれば…。 私の母は、病弱なのに私を生んで、私が小学校をあがる前に亡くなった。 もしも、私に弟なり妹がいればこの境遇から逃げ出すこともできただろう。 けれど、お父様は頑なに再婚話を受けなかったと聞いた。 彼なりに愛情はあるのだと思う。だけど……。 「来月には席を用意するからそのつもりで。あぁ、そうだ写真があったな。きっと美織もーー」 「見なくてもいいです。写真ではその人となりは分かりませんし」 どうせこれは決定事項だ。と、最後の言葉は言わなかったけれど、父は「うん、実際に会ったほうが良いだろうな」と、私の言葉を良いように受け取った。
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