1 カバネの災難

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「また相手してくれよ、カバネ。じゃあな」 男はやるだけやって、俺をその場に捨て置いて去って行った。 俺はいつからこんなに非力になってしまったんだ…。 殴られて、押さえつけられて、何も出来なかった。ヤシンの時は、されてもいいとどこかで思ったから、本気で抵抗しなかった。 だけどさっきは、本気で抵抗しようとしても、それすらさせて貰えなかった。 術なく、なすがまま…。 「…とにかく今は、服を着ないと」 立ち上がろうとして、無理やり貫かれたそこに鋭い痛みと、中からドロリと流れ出てくる気持ちの悪い感覚に襲われた。 足にも力が入らず、上手く立ち上がれなかった。 「くそっ!情けない……」 俺は、馬の蹄の音がこちらに近づいて来るのを感じた。 こんな姿を見られる訳にはいかない!だけど、体が言うことを利かない。 蹄の音がすぐ近くで止まり、人が近づいて来るのが分かった。 「カバネさん!返事をして下さい!ここに居ますよね!カバネさん!」 俺を呼ぶ、聞き慣れたヤシンの声。珍しく慌てている感じのヤシンの声。 「な、んで、ここに」 「カバネさん!そこにいるんですね?すぐに行きますから!」 「やっ、嫌だっ!来るな!来ないでくれ、頼む!嫌だ!見られたくない!嫌だ!」 俺は見られたくなくて、必死に体を丸くした。 「ごめんなさいっ!来るの、遅くなって。ごめんなさい!僕、あなたを守れなかった…」 駆け寄ってきたヤシンは、小さく体を丸めた俺を抱きしめて、ひたすら謝罪の言葉を叫んでいた。 俺はその瞬間、一気に色々込み上げてきて、いい大人なのに、オッサンなのに、大泣きしてしまった…。
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