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「ふふっ……理市クンってば、優しいにゃ」
西塔は、チカラなく笑った。
「オレっちが理市クンを置いていくわけないにゃ。もし逃げたら……理市クンが……」
「俺は大丈夫だから、逃げろ。そんで、南宮に連絡を取って、警察に……!」
「警察に行って、被害届でも出すのか?」
ふと、部屋の入口から聞こえた声に、ふたりは身体を強張らせた。
アノニマスマスクの男が、帰ってきていたのだ。
男は口角のあがったマスク越しに此方を見下ろしながら、理市に近づく。
「被害届なんて出したら、世間は大騒ぎになるだろうな。男とホテルに行き、呼び出された友人に犯されたアイドルなんて、軽蔑されて、非難の的になる。お前らを『カワイソウ』だと言う人間は一部だけだろう」
「いつまでこんなことするつもりだ? あんま長いこと監禁してると……それこそ世間が大騒ぎするぜ? 大人気アイドルグループのひとりが、行方不明ってな」
「問題ない」
理市の言葉に短く答えた男は、マスクの顎部を親指と人差し指で摘まみ、ゆっくり持ち上げる。
「このお遊びは、ここまでだ」
男はそう言いながら、マスクを外し、それを西塔に向かって投げた。
理市は、息をすることも忘れて、男の顔にくぎ付けになる。
その男は、理市もよく知る人だった。
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