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「うう、理市のばかぁ……Saaくんと浮気だなんて、酷い。Saaくんだって、Nanくんがいるのに……」
「ふっふーん、相手してくれない東雲が悪いんだぜ?」
イタズラ気に笑ってやると、東雲の頬が、ぷくう、と膨れて、アイドルらしからぬ表情を作る。いや、これはこれで可愛いのだが。そんな本心はバレない様に奥に閉まって、視線をスマホに戻す。
仮に、西塔と連絡がついたとしても、西塔とはセックスをしない。互いに欲求が収まらない時だって、見せ合いっこ程度で終わりにしている。
なぜなら、東雲の言う通り、西塔には南宮が居る。つまり、西塔と南宮は、おそらく恋人関係にある。はっきりそうは言わないけれど、いつも一緒に居るし、身体の関係もあるようだった。
そんな事を知る由もない東雲の表情は不貞腐れていて、むすっとしている。
「相手してって言われても……」
「だから、無理しなくてイイって」
「あ、そうだ!」
突然、東雲の表情がぱあっと明るくなって、とてもいいことを思いついた子どもの様に、キラキラと輝きはじめた。
「理市の浮気防止に、適役の人が居るよ!」
*
「で?」
目の前にいる不機嫌で不愛想な男……北条は、熱い紅茶をひとくち飲み、大きくため息を吐いた。琥珀色がカップの中で揺れて、湯気と共にいい香りを漂わせる。
ここは、北条の自宅らしい。実家暮らしで、親も音楽関係の仕事をしているらしく、完全防音、冷暖房完備の『離れ』に、理市と東雲は上がらせてもらっていた。
「ごめん、Peeくん。忙しいのは重々承知してるんだけど……」
「……お前らの付き合いは認めないと何度言ったら分かるんだ」
北条は理市の方へ鋭い視線を送る。
そんな彼を見てつい「昭和の頑固おやじかよ」と小言を漏らすと、東雲がシーー! と理市の口を手で塞いだ。
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