One

1/8
前へ
/25ページ
次へ

One

「あ~~……セックスしてぇ」  卓麻理市(たくま りいち)は、だらしない自覚があった。  私生活云々、ではなく、性的欲求に関しての事だ。  遊び始めたのは、中学校3年生になった頃から。受験勉強や、親の期待、先生からの重圧に耐えかねて、羽目を外したことがキッカケだったと記憶している。  現在、大学2年生。このだらしない下半身は矯正されることなく、今でも自分の欲求に対して正直に反応していた。 「ちょっと、恋人の前で、そういうこと言うのやめようよ」  理市の放った唐突すぎる告白に、理市の目の前に座る彼は、頬を赤く染めながら咳払いをした。東雲(しののめ)弥太郎(やたろう)、理市の友人…いや、恋人である。  同じ大学のゼミに所属したことで知り合い、仲良くなった。最近は、理市の家に入り浸る事が多い。それから少しして、東雲の告白により、ふたりは恋人同士になった。  今日も、課題のレジュメを作成する為、小さな折りたたみ式のテーブルに、ぎゅうぎゅうになって資料を広げている。 「いーじゃん、ヤろうぜ、今から」 「今から?! ご、ごめん、僕、この後仕事が入ってるからさ……」  東雲の仕事、とは、主にアイドル活動か、雑誌などのモデルの仕事である。  彼は大学生でありながら、現在大人気沸騰中の男性アイドルグループ『4Winds』のリーダーもしている、超売れっ子だった。  4Windsは『女子中高生の憧れる、お兄さんアイドル』というモチーフらしく、現在現役大学生である4人が集まって結成されたそうだ。  メンバーやファンは、彼らを通称で呼び合う。 『リーダー東雲(しののめ)Sino(しの)』 『サブリーダー南宮(なんぐう)Nan(なん)』 『西塔(さいとう)Saa(さあ)』 『北条(ほうじょう)Pee(ぺえ)』  特技や個性の溢れる4人の作り出す、爽やかで輝かしいオーラが、女子中高生だけではなく、その親世代にもヒットし、その人気は衰えることを知らない。  そんなアイドルグループや東雲と仲良くなった理市は、偶然に偶然が重なったのかもしれない。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加