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彼女と出会ったのは久しぶりに海上の空気を吸おうとしたときだった。青い海に不自然な波紋を見つけて、恐る恐る僕はそこへ向かった。
一目で彼女ニンゲンだということはわかった。だって、鱗も触手も尾びれも甲羅もなかったから。
そして、何よりバタバタともがいている。溺れている生き物を私は初めて見た。
とりあえず、僕は彼女の足元まで潜っていき、浮上する。
すると、難なく彼女は甲羅に座る形になって浮上する。簡単に助けられた。
「ありがとう。助かったよ」
ゲホゲホとしばらく咳き込んだあと、彼女はそう言った。
「どうして、ここに?」
「その、落ちちゃったから。早くしないと大変なことになるからって考えずに行動しちゃった」
――つまり、空の住人ってことだろうか。
全てが海に覆われる前に空の生物が数少ないニンゲンを連れていったという伝説を聞いたことがある。海の生物より空の生物は慈悲深い。
「それで、亀さん。陸地まで案内してもらえる?」
彼女は何かを誤魔化すように笑いながら「お礼はそこで……」と付け加える。
「残念だけど、ここに陸地はないんだ」
僕がそう言うと、彼女は「えっ……」と心底困った声をあげる。
「でも、一分間くらい私に掴まって息を止めてくれたら、いいところに連れていけるよ」
「本当に!?」
彼女は素直に僕にしがみつく。その姿に少しだけ罪悪感が芽生えた。
海の世界は一見、鮮やかだ。殆どの生物が食うか食われるかの関係なのに、その風景は静かで落ち着いている。
魚の大群も揺れる海藻も、明日にはなくなっているかもしれない。
でも、そういう刹那的な面がここを幻想的にしているのかもしれない。
「すごい……!」
城を見つけた彼女ははしゃぐ。はしゃいだあとに口を押さえて、死にかけている。
僕は急いで城に向かった。何故か城ではニンゲンはちゃんと呼吸できるという話だ。
半信半疑な面もあったが、城に着いた彼女は大して苦しまず笑っていた。
「もしかして、竜宮城? 本当にあったんだ」
城の名前も知っている。空の世界でもあの話は有名なのだろうか。
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