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だだっ広い客間に案内して茶を出して、僕はあるものを取りに行く。彼女は茶菓子の金平糖を見て、大層喜んでいた。
「私、知ってる。玉手箱って奴でしょ?」
僕が持ってきた箱の名前を彼女が言う。特に驚きはしなかった。
「僕と一緒にこの箱を開けて欲しいんだ」
「そんなことでいいの?」
彼女は目を丸くする。すぐに箱に手を伸ばしたが、すぐに止めた。
「でも、この箱を開けたら、浦島太郎は年老いて不幸になったよね……」
――空ではそういう風にあの話が伝わっているのか。
だったら、彼自身にとって中身は呪いだったのかもしれない。
「――確かにこれは玉手箱だけど、彼とは別の物だよ。彼が開けたものと同じ中身かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
僕は「僕じゃ開けられなくてさ」と笑顔を作る。
「中身、気にならない?」
「そう言われると、気になるけど……」
最初は渋っていた彼女だったけど、時間が経っていくうちに好奇心が勝ったようだ。
箱の中から白い煙がもくもくと出てきて、僕と彼女は咳き込んだ。
一夜明けると、彼女は消えていた。
息が出来ない海に飛び出してどうなるか気になるが、大して心配はしていない。
ニンゲンにしか開けられない玉手箱の中身は呪いだ。僕自身は祝福だと思っているけれど。
この箱を開けた浦島太郎は永遠の命を手に入れて仙人になった。いや、仙人になったから永遠の命を手に入れた?
そんなことはどちらでもいいか。
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