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レイジェは手をぽんっと打って、嬉しそうに言う。瑠璃はむっとしたように彼女を睨んでみるが、大人げないなとようやく椅子に座った。
魔法使いを見つめながら、レイジェは椅子のサイズに合う程度にサイズを上げ、脚をぱたぱたとさせる。ウェイトレス妖精に現代ルーンを送って、チョコレットを注文した。瑠璃はすでに、キッチンへとバタフライピーの紅茶を注文していた。
ここは、地上の世界である。
生物としての種類も、職業も際限がなく、このリーデルガーデンにはたくさんの生きている魂が暮らしていた。
レイジェ・アイは巨人族の血が入った乙女で、学生だった。元気ばかりの取り柄の彼女が、ドラゴンの森へと探索に出かけて迷子になったとき、それを見つけたのが瑠璃というわけである。瑠璃はこの世界の中で、ただの魔法使いだった。ただそこに血脈はなく、瑠璃という存在のままですでに五百年を生きている。
「……私が迷子になったとき以来だから、瑠璃ちゃんに会うのって、もしかして十五年ぶりぐらい?」
「さあねえ……」
瑠璃はやれやれと言ったように、手元に届いた紅茶を飲んだ。カップの中身、紅茶の水面はきらきらと青に輝いていた。背中を丸めてそれを見つめる彼女に、レイジェは椅子から身を乗り出して、どこか泣きそうな顔をした。
「る、瑠璃ちゃんってば、わたしのこと忘れてる!? わたしのこと、いきなり飛びついてきた、ばかな巨人って思ってたりする!?」
「……話が飛躍しすぎではないかね」
「だってだって~!」
「足をぱたぱたするな。スカートが捲れるぞ」
駄々をこねる子供みたいな動きをする彼女に、瑠璃は「覚えているけれど」とどこか恥ずかしそうに言う。それから「何年前だとか、そういう正確なことは忘れてしまったという意味だよ」と続けた。
瑠璃は、椅子に背を凭れさせて、レイジェのことを見上げる。
瑠璃がレイジェを助けたことは、ある意味偶然ではない。彼女がその森へと入って行くところを見ていたから、迷子になったということを察して助けたばかりだった。
「私ねえ、不思議なんだよ」
「なにがだね?」
レイジェは一転して、落ち着いた様子で、懐かしむように口元を緩める。
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