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「瑠璃ちゃんにはさ、助けてもらったときのことしか覚えてないの。それもちっちゃい手だけで、顔もろくに見えなかった。なのに、私はこんなにも瑠璃ちゃんのことが記憶に残ってて、また会いたいなあって思えちゃうの」
「……ふぅん」
「あっ、ちっちゃい手って言ったけど、ほかにも覚えてるよ! それはね~瑠璃ちゃんの瞳!!」
レイジェはまたテーブルに身を乗り出し、今度は瑠璃の顔を覗き込むようにした。手を伸ばし、壊れ物に触るように丁寧に、そっと瑠璃の頬を撫でる。そうして「やっぱり綺麗!」とにこっと笑った。
「なにが……?」
「瞳の色だよ~きれいな青色。アクアマリンだね!」
レイジェの言葉に、瑠璃はぽかんとしたような表情を浮かべる。その裏には、そんなことを言われたのは百年ぶりだという驚きとか、魔法使い特有の目の色を褒めるなんてという呆れとか、彼女の素直さに対する喜びのようなものを感じていた。それは胸を絞めるものでもあった。
「レイジェは、そういうことを平気で言うのだね」
瑠璃は、レイジェの栗色の髪を指で摘まむ。絹糸のようにさらさらとした髪を、そのまま撫でた。
「そういうこと?」
「綺麗とか、ね」
瑠璃がくくくっと笑えば、レイジェは「わ~!」と叫んで、顔を赤くする。恥ずかしそうに「そういうこと言っちゃえた!」と手をぱたぱたした。その勢いに、瑠璃は風に煽られたようになり、ローブがばたばたと揺れる。
「力を加減したまえ、君……」
瑠璃はローブを押さえながら、冷静に言う。
レイジェが「そうは言っても~」ともだもだしたところで、チョコレットがぽんっとテーブルに出現した。レイジェはそれを手に取り、少しだけ飲んだ。チョコレットというフルーツを使った飲み物は、彼女の喉をするりと通っていった。
「……だけどさ、だれかに綺麗って言ったり思ったりしたの、瑠璃ちゃんがはじめてだったの。最初で最後……うーん、最後かはわかんないけど」
「そうかね」
「こないだ、付き合ってた子にフラれちゃって……誰かをまたすき?ってなれるには時間がかかる気がするの」
レイジェは言いながら、しゅんと肩を落とす。
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