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高村くんは少しばかりバツの悪そうな表情で言った。
「蒼田悠一は僕の兄貴なんです。親が離婚してそれぞれに引き取られたんで苗字が違いますけど。
仲はまぁいいほうなんじゃないかな?」
もっとも、この先はどうなるか分らないけど。ぶん殴ったのは義姉さんの分もあって……」
「え、でもだって……あんまり似てない……」
青子がいぶかしげにポツリそう言えば、高村はしれっとこう切り返した。
「僕のほうがいい男でしょ!?」
「アイツですか? 今日は車出勤だから大丈夫です。朝一緒に出勤したんですよ。ね、仲良しでしょ(笑)」
「そんなことより楠本さん。せっかくですから、これからの話をしませんか? 僕たち二人の。
僕、コーヒー買ってきます。楠本さんお代わりは?」
何を言い出すのだろう、この若者は……これからって、僕たち二人のって……帰らなきゃ。帰るのよ、青子!
けれど、腰がくだけた彼女はスツールから立ち上がることすらできない。
心臓がバクバクとうるさい。どうしよう、もう、逃げられない……
〔青柳さん。今回のコレクションのテーマである“BLUE”についてですが、
ショーの冒頭の度肝を抜く演出から、ラストに登場する思わず息を呑んでしまうアイスブルーのコンビドレスまで、
ブルーと言ってもじつにさまざまな色がありますね〕
〔そうなんです。青色にまつわる話には興味深いものがたくさんあって、
18世紀頃まで使われていた青色というのは、アズライト(藍銅鉱)という半貴石……
つまり宝石ですね。それを粉砕して使っていたんです。
これは天然の青色顔料ですが、人口化合物としての青色顔料はじつはもっと歴史が古く――〕
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